靴職人と魔法のミシン
The Cobbler  The Cobbler
(2014) on IMDb


2014年/アメリカ/カラー/98分/
line
(初出:)

 

 

トム・マッカーシーらしからぬ
ファンタジックなコメディ

 

[ストーリー] ニューヨークの下町で代々続く小さな靴修理店を営むマックスは、単調な毎日をはてしなくリピートするように生きてきた中年男。ある日、愛用のミシンが故障し、先祖伝来の旧式ミシンで仕上げた靴を試し履きした彼は、鏡を覗き込んでびっくり仰天。何と自分とは似ても似つかぬその靴の持ち主に変身していたのだ!

 かくして"魔法のミシン"を手に入れたマックスは、世代も人種も異なる他人の人生を疑似体験し、かつてない刺激的で痛快な日々を満喫していく。やがてちょっとした親孝行をきっかけに、相次ぐトラブルに見舞われたマックスの行く手には、本当に人生が一変するほどの大事件が待っていた――。[プレスより]

 トム・マッカーシー監督にとって4作目の長編になる『靴職人と魔法のミシン』(14)は、それを知らずに観ていたら、筆者にはこの監督の作品だとわからなかっただろう。この映画の世界やそこに見られる話術は、『ステーション・エージェント(原題)』(03)、『扉をたたく人』(07)、『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』(11)で切り拓いてきたものとはまったく違う。

 マッカーシー監督のこれまでの作品には共通点があった。ある事情で人を遠ざけるようになった孤独な主人公が、別な事情で孤立している他者と偶然に出会い、次第に心を開き、自分の気持ちに正直に行動するようになる。

 『ステーション・エージェント(原題)』では、主人公のフィンが小人症で、好奇の目に晒されたくないという思いが、人を遠ざける原因になっていた。そんな彼は大好きな“鉄道”を媒介として、喪失の痛みを抱える画家や黒人の少女に心を開いていく。

 『扉をたたく人』では、ピアニストの妻を亡くし、心を閉ざすようになった大学教授が、偶然に出会ったシリア移民の打楽器奏者と友情を育む。だが、その友人が不法滞在者として収監されたことをきっかけに、現実と他者の痛みに目覚める。この映画では“音楽”が媒介となる。

 『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』では、金銭面で苦境に立つ弁護士マイクが、ひょんなことから家出してきた少年カイルに出会い、生活が一変する。お互いに孤立する状況にあった彼らは、“レスリング”を媒介にして接近していく。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   トム・マッカーシー
Tom McCarthy
脚本 ポール・サド
Paul Sado
撮影 モット・ハップフェル
Mott Hupfel
編集 トム・マクアードル
Tom McArdle
音楽 ジョン・デブニー、ニック・ウラタ
John Debney, Nick Urata
 
◆キャスト◆
 
マックス・シムキン   アダム・サンドラー
Adam Sandler
アブラハム・シムキン ダスティン・ホフマン
Dustin Hoffman
ジミー スティーヴ・ブシェミ
Steve Buscemi
クラブDJ ダン・スティーヴンス
Dan Stevens
レオン・ラドロー メソッド・マン
Method Man
エレーン・グリーンウォルト エレン・バーキン
Ellen Barkin
カーメン・ヘララ メロニー・ディアス
Melonie Diaz
シムキン夫人 リン・コーエン
Lynn Cohen
-
(配給:ロングライド)
 

 新作『靴職人と魔法のミシン』でも、単調な生活を送る孤独な靴職人マックスが、“靴”を媒介にして、他者と接点を持つようになる。そこまではマッカーシーらしい展開と思えるが、マックスは靴の持ち主に変身して、他人の生活を覗き見るだけで、媒介を通して人物の背景や内面が掘り下げられていくわけではない。そうなると、靴職人が客から預かった靴を勝手に履いて、歩き回ること自体が気持ちのよいものではなくなる。

 これまでの作品の主人公たちは、決して自己から逃れることはできなかったが、マックスは、自分ではなく他者の仮面を利用して問題を解決していく。また、1903年のロウアー・イーストサイドに設定されたプロローグは、コーエン兄弟の『シリアスマン』(09)を連想させたりもするが、あの映画のようにユダヤ文化に根ざした世界観が浮かび上がってくるわけでもない。マッカーシーの作品だと思わなければ、ファンタジックなコメディとして楽しめないわけではないが、ファンとしてはやはり物足りない。


(upload:2015/04/22)
 
 
《関連リンク》
『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』 レビュー ■
『扉をたたく人』 レビュー ■
『ステーション・エージェント(原題)』 レビュー ■
ジョエル&イーサン・コーエン 『シリアスマン』 レビュー ■

 
 
 
amazon.co.jpへ●
 
ご意見はこちらへ Email c-cross@cside2.com