夏をゆく人々
Le meraviglie / The Wonders The Wonders (2014) on IMDb


2014年/イタリア=スイス=ドイツ/カラー/111分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:「CDジャーナル」2015年9月号)

 

 

イタリアの新鋭アリーチェ・ロルヴァケル
カンヌ国際映画祭グランプリ受賞の長編第2作

 

[ストーリー] みずみずしい光と緑あふれるイタリア・トスカーナ地方の人里離れた土地で、昔ながらの方法で養蜂を営む一家。ジェルソミーナは4人姉妹の長女で、自然との共存をめざす父ヴォルフガングの独自の教育と、寵愛を受けてきた。家族は蜜蜂とともに自然のリズムのなかで生活を営んできたが、ある夏、村にデレビクルーが訪れ、一家がひとりの少年を預かったことから、日々にさざなみが立ち始める――。

 『天空のからだ』(11)で長編デビューを果たしたイタリアの新鋭女性監督アリーチェ・ロルヴァケルの第2作です。カンヌ国際映画祭グランプリを受賞しています。彼女の姉で女優のアルバ・ロルヴァケルも出演しています。

[以下、簡単な感想です。その後レビューになります]

 ロルヴァケルのデビュー作『天空のからだ』で筆者が唸ったのは、映画の舞台となる南イタリア、レッジョ・カラブリアという土地と登場人物たちの関係を炙り出す鋭い感覚でした。それゆえ自伝的な作品なのかと思い込みそうになりますが、そうではありません。レビューに書いたように、ロルヴァケルは中部のトスカーナ州フィエーゾレで生まれ、同じく中部のウンベルト州カステル・ジョルジョで育ち、カトリックの教育も受けていないからです。

 これに対して『夏をゆく人々』は、彼女の故郷であるイタリア中部を舞台にしています。しかも彼女もヒロインのジェルソミーナと同じくドイツとイタリアの混血で、家は養蜂を営んでいました。この映画でも、土地と主人公たちの関係を炙り出す感性に唸りますが、デビュー作で証明されているように、そんな感性と自伝的な要素を単純に結びつけることはできません。

 そこで筆者が注目したいのが、2作品がよく似た場面から始まることです。それは屋外で、闇のなかに光が瞬き、人々が動き回っているような場面です。警察か捜索隊が犠牲者や遭難者を捜しているのではないかと思いたくなる光景ですが、どちらもそうではないことがわかります。そんな導入部は、ロルヴァケルが舞台となる土地を普通とは違う感覚でとらえることを示唆する、異世界への入口になっているといえます。詳しくはあらためて。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   アリーチェ・ロルヴァケル
Alice Rohrwacher
撮影 エレーヌ・ルバール
Helene Louvart
編集 マルコ・スポレンティーニ
Marco Spoletini
音楽 ピエロ・クリチッティ
Piero Crucitti
 
◆キャスト◆
 
ジェルソミーナ   マリア・アレクサンドラ・ルング
Maria Alexandra Lungu
アンジェリカ アルバ・ロルヴァケル
Alba Rohrwacher
ヴォルフガング サム・ルーウィック
Sam Louwyck
ココ ザビーネ・ティモテオ
Sabine Timoteo
マリネッラ アニェーゼ・グラッツィアーニ
Agnese Graziani
マルティン ルイス・ウイルカ・ログローニョ
Luis Huilca Logrono
ミリー・カテナ モニカ・ベルッチ
Monica Bellucci
-
(配給:ハーク)
 

[以下、レビューになります]

 カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いたイタリアの新鋭アリーチェ・ロルヴァケルの長編第2作『夏をゆく人々』では、イタリア中部トスカーナ州周辺の人里離れた土地で、養蜂を営む一家の姿が描かれる。4人姉妹の長女ジェルソミーナは、頑固な父親ヴォルフガングの右腕となって蜜蜂と過ごす日々を送ってきた。だが、村にテレビ番組「ふしぎの国」のクルーが訪れ、父親の一存で非行からの更生を目指す少年マルティンを預かったことから、彼女の心は複雑に揺れていく。

 ロルヴァケルはデビュー作『天空のからだ』とこの新作で少女の成長を描いているが、見逃せないのは舞台となる土地と登場人物に対する鋭い洞察だ。『天空のからだ』は、少女マルタと母親が10年ぶりにスイスから南イタリアのレッジョ・カラブリアに戻ってくるところから始まる。だが、教会の堅信式を控えた少女は、厳格な教義に馴染むことができない。彼女は土地の宗教的な伝統に戸惑っているように見えるが、それは正しくない。土地は長年にわたるマフィアの支配で疲弊し、伝統は形骸化している。神父や教会の教育係は自身の欲望を満たすために伝統を利用しているに過ぎない。この映画では、マルタがそのことに気づき、土地をありのままに見られるようになることが、成長を意味する。

 そして『夏をゆく人々』では、現代における伝統がさらに深く掘り下げられる。ジェルソミーナの父親はその土地で生まれ、昔ながらの養蜂を守っているわけではない。彼は現代社会や政治に幻滅し、伝統に回帰したリベラルといえる。しかし、外の世界を知らない娘には、そんな父親の理想を理解できるはずもない。一方、村を訪れるテレビクルーは、田舎の生活を賛美する番組を通して伝統のイメージを利用しているだけだが、女神のようなオーラを放つ司会者に魅了されたジェルソミーナは、すぐにはそのことに気づかない。

 少女は理想化された伝統や利用される伝統に取り込まれている。そんな彼女を変えるのが少年マルティンだ。伝統の側にいると思っていた彼女は、誰とも口をきかず、身体に触れられることを恐れる少年との交流を通して、他者の視点を獲得する。その結果、自分を取り巻く世界をありのままに見られるようになり、成長を遂げることになる。


(upload:2015/09/23)
 
 
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