オン・ザ・ロード (レビュー01)
On the Road  On the Road
(2012) on IMDb


2012年/フランス=ブラジル/カラー/139分/スコープサイズ/ドルビーデジタルDTS
line
(初出:「映画.com」2013年8月27日更新、若干の加筆)

 

 

父親とフロンティアの喪失によってもたらされた
作家ケルアックの覚醒の瞬間

 

 ウォルター・サレス監督の『オン・ザ・ロード』は、ビート文学を代表するジャック・ケルアックの同名小説の単なる映画化ではない。サレスは主人公サルを通してケルアックの複雑な内面に迫り、作家として覚醒する瞬間を鮮やかに描き出している。

 それができたのは、サレスとケルアックに共通点といえるものがあったからだろう。ブラジルで成功を収めたサレスは、『ダーク・ウォーター』でハリウッドに進出してはいるものの、アメリカでは異邦人である。ケルアックは、ニューイングランドに移ってきたフランス系カナダ人の子として生まれ、フランス語を母語、英語を第二言語として育った。

 この映画には、サルが母親と二人だけのときにフランス語で会話する場面がある。彼は作家を目指しつつも、英語ではまだ自分の文体を完全には確立していない。そんな彼がディーンに魅了されるのは、この型破りな男にアメリカを強く感じるからだ。西部出身のディーンはサルにとってカウボーイであり、かつての開拓者と同じように西へ向かうことから始まる旅には、フロンティアが意識されている。

 さらに、もうひとつ見逃せないのが、父親をめぐる視点だ。映画は、サルの父親の死のエピソードから始まる。一般に流通している『オン・ザ・ロード』の1957年刊行版は、妻との離婚から始まる。父親の死から始まるのは、ケルアック自身が手を加える前のオリジナル版(『スクロール版オン・ザ・ロード』として刊行されている)だ。

 サレスはオリジナル版のほうにだいぶインスパイアされている。それが父親へのこだわりに表れている。サルとディーンの性格や生き方は対照的だが、実はどちらも父親の喪失に苛まれている。

 サレスが世界的な名声を獲得した『セントラル・ステーション』は、少年が顔も知らない父親を探す物語だった。この監督はかつて「The Guardian」のインタビューで、その父親探しについて以下のように語っていた。

ポルトガル語では、父(pai)と国(pais)を表す言葉はほとんど同じです。だから、父親を探すことは、国を探すことでもあるのです

 この映画では、そんな独自の視点と原作の世界が巧みに結びつけられ、父親の喪失がフロンティアの喪失に重ねられていく。そして、サルが喪失という現実を受け入れたとき、彼のなかに旅の記憶が鮮明に甦り、言葉によって新たな空間が切り拓かれていくことになる。


◆スタッフ◆
 
監督   ウォルター・サレス
Walter Salles
脚本 ホセ・リベーラ
Jose Rivera
原作 ジャック・ケルアック
Jack Kerouac
製作総指揮 フランシス・フォード・コッポラ
Francis Ford Coppola
撮影 エリック・ゴーティエ
Eric Gautier
編集 フランソワ・ジェディジエ
Francois Gedigier
音楽 グスターボ・サンタオラヤ
Gustavo Santaolalla
 
◆キャスト◆
 
ディーン・モリアーティ   ギャレット・ヘドランド
Garrett Hedlund
サル・パラダイス サム・ライリー
Sam Riley
メリールウ クリステン・スチュワート
Kristen Stewart
ジェーン エイミー・アダムス
Amy Adams
カーロ・マルクス トム・スターリッジ
Tom Sturridge
エド・ダンケル ダニー・モーガン
Danny Morgan
テリー アリシー・ブラガ
Alice Braga
ギャラテア・ダンケル エリザベス・モス
Elisabeth Moss
カミール キルスティン・ダンスト
Kirsten Dunst
オールド・ブル・リー ヴィゴ・モーテンセン
Viggo Mortensen
-
(配給:ブロードメディア・スタジオ)
 

 

《参照/引用文献》
『スクロール版 オン・ザ・ロード』 ジャック・ケルアック●
青山南訳(河出書房新社)

(upload:2014/03/04)
 
 
《関連リンク》
『オン・ザ・ロード』 レビュー02 ■
『セントラル・ステーション』 レビュー ■
『ビハインド・ザ・サン』 レビュー ■
『モーターサイクル・ダイアリーズ』 レビュー ■
『ダーク・ウォーター』 レビュー ■

 
 
amazon.co.jpへ●
 
ご意見はこちらへ Email c-cross@cside2.com