リアル・ブロンド

1997年 / アメリカ / カラー / 105分 / アメリカンビスタ / ドルビーSRD
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(初出:「リアル・ブロンド」劇場用パンフレット)
思い込みと現実のギャップから浮かび上がる人間模様

 人は多かれ少なかれ自分に対する思い込みを持っているものだが、それがエスカレートすると現実を見失い、厄介なことになる。 トム・ディチロ監督は、そんな思い込みと現実のギャップを通して人間をユーモラスに見つめる達人といえる。彼の映画には思い込みに囚われた人物たちが登場し、 現実とのギャップに振り回されるが、意外な展開のなかで自分の本来の姿を発見する。

 たとえば、低予算映画の撮影現場を描いた2作目の「リビング・イン・オブリビオン」。 主人公である映画監督は、作品の完成前からオスカーの授賞式でスポットライトを浴びる自分の姿を妄想しているが、肝心の現場はトラブルの連続で、彼は悪夢に引き込まれていく。 トラブルといっても機材の故障やドラマを台無しにする外の雑音などは何とか対処のしようがあるが、厄介なのは撮影中の映画の世界に勝手に割り込んでくるキャストやスタッフの個人的な感情だ。 ところが、そんな混乱が時としてはっとする瞬間を導く。主人公を悩ませる周囲の人間たちの個人的な感情や関係という現実と撮影中の映画の虚構の世界が思いもよらないところで絡み合い、 主人公の演出からはとても引き出せそうにないドラマを生んでしまったりするのだ。

 思い込みと現実のギャップが混乱を生み、混乱が現実と虚構の垣根を消し去るとき、主人公は思わぬかたちで自己や他者の隠れた一面を発見する。 それはディチロの初監督作品「ジョニー・スウェード」にも当てはまる。主人公はどこからともなく降ってきたスウェードの靴を自分のものにしたときから、 ロックンロールのスターという思い込みを生きるようになり、現実と妄想が入り組む混乱状態に陥っていくが、そのなかでスウェードの靴よりも大切なものを見つけだすのだ。

 ディチロにとって4作目となるこの「リアル・ブロンド」もまた、昼メロ、写真、MTVといったショービジネスの世界を舞台に、 現実と虚構が複雑に入り組んでいくところがいかにもこの監督らしい。特にこの作品では、男と女の立場の違いが、主人公たちの思い込みの出発点になっているところが面白い。


◆スタッフ◆

監督/脚本
トム・ディチロ
Tom DiCillo
撮影監督 フランク・プリンジ
Frank Prinzi
編集 カミーラ・トニオロ
Camilla Toniolo
音楽 ジム・ファーマー
Jim Farmer
製作 マーカス・ヴェシディ/トム・ローゼンバーグ
Marcus Viscidi/Tom Rosenberg

◆キャスト◆

ジョー
マシュー・モディン
Matthew Modine
メアリー キャサリン・キーナー
Catherine Keener
ボブ マックスウェル・コールフィールド
Maxwell Caulfield
サハラ ブリジット・ウィルソン
Bridgette Wilson
ケリー ダリル・ハンナ
Daryl Hannah

(配給 KUZUIエンタープライズ)


 「リアル・ブロンド」というタイトルは、ボブのブロンド信仰からきているが、そのボブとサハラはそれぞれにブロンドのイメージに縛られている。 ボブはブロンド信仰ゆえに、自分がブロンドに見合うタイプの男だという思い込みを生き、サハラは女性カメラマンの期待に答えるために自分がワイルドで危ないブロンドなのだと思い込もうと努めている。 そんな彼らは、現実とのギャップのなかで本来の自分を見つめざるを得なくなるのだが、ボブが昼メロでブロンドを死に追いやり、サハラが写真撮影で母性を発揮するという虚構との決着は、 ユーモラスであり痛快でもある。

 一方、ジョーとメアリーの場合はもっと現実的なカップルであり、そんな思い込みなどないはずだったが、付き合って6年という時間が思い込みをたぐりよせる。 ジョーは刺激的な関係を求め、メアリーは男性嫌悪に悩み、お互いにもうひとつ打ち解けられない。そんな彼らはそれぞれに路上で妄想を見るが、それはあくまで妄想だとわきまえている。 ところが、ジョーにマドンナ本人から電話が入り、メアリーが護身術のインストラクターに認められると、ただの妄想は強い思い込みに変貌する。そして、そんな思い込みが無惨な幻想に変わるとき、 思いもよらないパワーを発揮することになる。もはや怖いものがなくなった彼らは、映画のオーディションと護身術というそれぞれの舞台で、思い込みを吹き飛ばして裸の自分になり、 まさに意外な展開のなかで本来の願望を現実のものにするのだ。

 ディチロの魅力は、どんな人間でも思い込みに囚われることがあるという前提に立ち、日常に根ざした独自のユーモアを引き出し、人それぞれの本来の姿を見つめていくところにある。 登場人物たちに愛着をおぼえながら、思い込みが生む見せかけと現実のギャップには鋭い視線を注ぐ。そこにディチロならではのインディーズ・スピリットを感じるのだ。



《関連リンク》
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