せかいのおわり
world's end girl friend


2004年/日本/カラー/112分/ヴィスタ/DTS
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(初出:『せかいのおわり』劇場用パンフレット、若干の加筆)

 

 

親密で継続的な関係という平和

 

 『せかいのおわり』の終盤で、“苔moss”店長の三沢が、水槽の熱帯魚を見つめながら、こんな台詞を口にする。

 「平和だね、でもちょっと寂しい、なんつって

 この映画に登場する3人の主人公のなかで、三沢はドラマの中心にいる人物ではないが、彼のこの言葉には、映画の魅力が集約されているように思う。

 『せかいのおわり』の出発点になっているのは、風間監督の前作『火星のカノン』のなかで、不倫関係にある主人公の男女に絡む存在だった聖と真鍋だ。そのふたりの関係は、真鍋自身によってこんなふうに説明されていた。もともと彼は聖の姉と付き合っていて、その姉と別れた後も、聖との付かず離れずの関係がつづいている。彼はこれまで聖に4回告白したが、すべて玉砕した。セックスまでいったこともあるが、恋人同士としての関係はつづかなかった。

 『せかいのおわり』の主人公は、キャストは中村麻美と渋川清彦でも、彼らが演じる人物は、聖と真鍋ではなく、はる子と慎之介であり、設定もそのまま引き継がれているわけではない。この映画は、恋人同士にはならない(なれない)親密で継続的な関係というものを、『火星のカノン』とはまったく異なる視点から掘り下げていく。

 この映画でまず注目しなければならないのは、9・11以後の時代に対する明確な意識だろう。テレビからは、中東の自爆テロや少女の失踪、異常気象などのニュースが流れてくる。そしてドラマにも、はる子が子供の頃に思い描いた大洪水、飛行機が吹き飛ぶ幻想、中本のトラウマになっている落とし穴、ラズベリーアイスによって全滅する熱帯魚など、“せかいのおわり”を想起させるイメージが散りばめられている。

 風間監督は、そうしたイメージと巧みな構成、演出によって、主人公たちがそれぞれにせかいのおわりと向き合う姿を描き出そうとする。そのポイントになるのは導入部だ。


◆スタッフ◆

監督   風間志織
脚本

及川章太郎

製作 伊藤直克
撮影監督 石井勲
音楽 岸野雄一

◆キャスト◆

はる子   中村麻美
慎之介 渋川清彦(KEE)
三沢(店長) 長塚圭史
中本 田辺誠一
恵利香 安藤希
美容院店長 小日向文世
金くん 小林且弥
ヒロムちゃん 高木ブー
奥さん 久野真紀子

(配給:ビターズ・エンド)
 


 この映画は、金くんの家を追い出されたはる子が、慎之介を訪ねるところから始まる。慎之介は、ナンパした女の子がベッドにいるので、はる子を公園に連れ出し、落ち込んでいる彼女の話を聞く。女の子はほったらかしにされてしまうが、店長がフォローする。はる子は、慎之介と店長のところに居候し、新しい男ができると出ていく。

 この導入部は、現在進行形のドラマであると同時に、これまで3人が繰り返してきたことを暗に物語ってもいる。はる子は、慎之介が自分に好意を持っていることを知っていて、ひとりになると彼に甘える。彼女に告白できない慎之介は、他の女の子と付き合う気もないのにナンパばかりしている。だから、はる子が訪ねてくると、そこには必ず女の子がいるが、本当ははる子が好きな慎之介は、彼女の方を優先する。すると、店長にそのしわ寄せが行く。彼は慎之介に好意を持っているが、それを表に出さずに彼の面倒を見る。3人の間には、必ずしも想いと一致しない役割分担ができあがっているのだ。

 そして、映画の後半で、はる子が中本からひどい仕打ちをされたとき、同じことが再び繰り返されるかに見える。しかし、そのパターンは、次々と破綻していく。はる子が慎之介のところに現れるのは、彼に会うためではなく、スコップを持ち出すためだ。それでも慎之介は彼女を優先するが、ほったらかしにされた恵利香をフォローするはずの店長は、奈良で苔を探している。

 その結果、彼らはそれぞれにせかいのおわりと向き合い、パターンにはない表情、感情、行動を見せることになる。はる子は、慎之介に“ギュッ”を求め、夢心地の慎之介が目覚めると、彼の銀河系は消滅しており、奈良から戻った店長は、荒れ狂う慎之介を止めるために、意外な行動に出る。その連鎖を突き詰めれば、彼らは、一瞬だけ自分を曝け出すことによって、せかいのおわりをなんとか乗り越え、平和を取り戻すといえる。

 「平和だね、でもちょっと寂しい、なんつって」という店長の台詞は、響きは軽いが、その背後には、それほど軽くはない哀しみや痛みが隠れている。そんな台詞は同時に、はる子や慎之介の気持ちを表わしてもいるのだ。


(upload:2006/05/27)
 
 
《関連リンク》
『チョコリエッタ』 レビュー ■
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