ソフィアの夜明け (レビュー01)
Eastern Plays


2009年/ブルガリア/カラー/89分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:「CDジャーナル」2010年11月号、EAST×WEST17、若干の加筆)

絶望の淵に立つ幼なじみへの想いが
深遠な世界を切り拓く

 ブルガリア映画界の新星カメン・カレフ監督。彼の長編デビュー作『ソフィアの夜明け』の主人公は、ソフィアで別々に暮らす年の離れた兄弟イツォとゲオルギ、そして両親とソフィアを訪れたトルコ人の娘ウシュルだ。

 生活のために木工所で働く38歳の芸術家イツォは、麻薬中毒の治療の苦しみからアルコールを手放すことができない。父親や継母との諍いが絶えない17歳のゲオルギは、スキンヘッドのグループに引き込まれ、そのことが主人公たちを結びつけるきっかけとなる。スキンヘッドのグループが暗い夜道でトルコ人一家を襲い、そこを通りかかったイツォが一家を守ろうとして負傷し、美しい娘ウシュルと出会うのだ。

 このドラマでは、サッカー場でスキンヘッドに襲撃された外国人旅行者や新たな規制によって生活の領域を制限されかけているジプシーなど、テレビやラジオのニュースが印象に残る。だがカレフ監督は、単に社会の出来事を見せるためにそれらを挿入しているわけではない。 


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/プロデユーサー/編集   カメン・カレフ
Kamen Kalev
撮影監督 ユリアン・アタナソフ
Julian Atanassov
ミュージック・スコア ジャン=ポール・ウォール
Jean-Paul Wall
プロデューサー/編集 ステファン・ピリョフ
Stefan Piryov
プロデューサー フレデリク・ザンダー
Frederik Zander
編集 ヨハネス・ピンター
Johannes Pinter
 
◆キャスト◆
 
イツォ   フリスト・フリストフ
Christo Christov
ゲオルギ オヴァネス・ドゥロシャン
Ovanes Torosian
ウシュル サーデット・ウシュル・アクソイ
Saadet Isil Aksoy
ニキ ニコリナ・ヤンチェヴァ
Nikolina Yancheva
ウシュルの母 ハティジェ・アスラン
Hatice Aslan
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(配給:紀伊國屋書店、マーメイドフィルム)

 たとえば、スキンヘッドのグループは裏で政治家に金で操られて襲撃を繰り返していることがやがて明らかになる。兄弟の父親はいつも新聞やラジオ、テレビをチェックしているように見えるが、それは社会に関心があるからではなく、息子と向き合いたくないからだ。一方、食事中にチベット問題を話題にするなど、教養人であるように見えたウシュルの父親は、襲撃されたことで態度ががらりと変わり、ブルガリア人というだけで恩人であるイツォまで遠ざけるようになる。

 政治や社会、家族に対するそんなカレフ監督の視点は、イツォを演じ、撮影終了間際に他界したフリスト・フリストフの存在と無関係ではない。彼は、深い絶望に囚われたこの幼なじみの実人生にインスパイアされて、イツォの物語を作り上げた。だからこの映画には、ドキュメンタリーのように生々しく、張り詰めた空気がある。

 しかしその一方でカレフ監督は、ゲオルギとウシュルという架空の人物を盛り込んでいる。それは、必ずしも兄弟の絆や恋愛感情を描くためではない。ゲオルギとは、イツォが過去を見つめるためのもうひとりの自分であり、ウシュルとは、寡黙なイツォの代弁者であり、病んだ肉体に苦しむ彼の精神の力を呼び覚まそうとする使者でもある。

 この映画には絶望の淵に立つ幼なじみへの深い想いが刻み込まれている。だから、尋常ではない凄みがあり、深遠な世界が切り拓かれているのだ。


(upload:2011/01/14)
 
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