太陽の誘い

1998年/スウェーデン/カラー/118分/35ミリ/シネマスコープ(1:2.35)
line
(初出:「骰子/DICE」2000年4月)
恋愛のドラマから浮かび上がる豊かな北欧精神

 常に何か斬新でとんがったものを求めている人にとって、この映画は退屈に思えることだろう。たとえどんなに俳優の演技が素晴らしく、自然が美しく、物語が純粋かつ官能的で、お伽噺的な魅力があったとしても、所詮はただの恋愛映画ではないか、というように。

 確かにこれは恋愛映画だが、そこからただの恋愛しか見えないのは、これを観る人間の想像力が貧しいからだ。

 われわれが未来について考えるとき、何度でも振り返っておく必要がある時代があるとすれば、それは間違いなく戦後の50年代だ。冷戦から生まれた50年代の価値観は、その支えであった冷戦構造が崩壊すれば見直されて当たり前だが、まるで何事もなかったかのようにだらだらと引き継がれている。

 50年代半ばのスウェーデンの田舎町を舞台にしたこの映画には、たとえば、フリドリク・トール・フリドリクソン監督のアイスランド映画「精霊の島」に通じる視点がある。つまり自分たちの出発点を極力身近な、小さな世界を通して振り返り、いま自分たちがいる場所を再確認するということだ。

 「精霊の島」と同じようにこの映画にも、アメリカ帰りで、アメリカ体験を自分の支えにしている若者が登場する。孤独な主人公は、唯一の友人といえるこの若者の言いなりになっている。その主人公の前に、50年代ファッションが眩しい都会的な女性が現れる。この映画では、 彼女の過去はほとんど語られないが、彼女がこれまでどんな生活を送ってきたかを察するのは難しいことではない。そんな彼女が漂わせるエロティシズムの質は、主人公との関係のなかで確実に変化していく。そして自分に閉じこもっていた主人公も、友人の若者の言葉ではなく、 自分を信じることによって逞しい人間へと変貌を遂げていく。


◆スタッフ◆

監督/脚本/製作
コリン・ナトリー
Colin Nutley
脚本協力 ジョアナ・ホールド/デイヴィッド・ニール
Johanna Hald/David Neal
原作 H・E・ベイツ
(短編「小さな農場」)
H.E.Bates
製作総指揮 マッツ・ミレマール/ヤン・ベイメ
Mats Nilemar/Jan Beime
撮影 イェンス・フィッシェル
Jens Fischer
編集 ペリー・シャファー
Perry Schaffer
音楽 バディ・モローニ
Paddy Moloney

◆キャスト◆

オロフ
ロルフ・ラスゴード
Rolf Lassgard
エレン ヘレーナ・ベリストレム
Helena Bergstrom
エリック ユーハン・ヴィーデルベリ
Johan Widerberg

(配給:アルシネテラン)



 監督のコリン・ナトリーは50年代のスウェーデンを体験しているわけではない。イギリス生まれの彼が、スウェーデンに移ってきたのはもっと後のことだし、この映画の原作もイギリス人作家H・E・ベイツの短編小説である。彼はその舞台をスウェーデンに変え、 50年代というものを振り返る象徴的なドラマを作り上げた。この映画で彼は、ただの恋愛から一歩も踏みだすことなく、50年代をしっかりと読み直している。それは決して反米感情というものではなく、当たり前のように湧きあがる自然な姿勢である。その豊かさが心の底から羨ましく思えるのだ。



《関連リンク》
コリン・ナトリー・インタビュー ■
「精霊の島」レビュー ■

ご意見はこちらへ c-cross@cside2.com

back topへ




■home ■Movie ■Book ■Art ■Music ■Politics ■Life ■Others ■Digital ■Current Issues


copyright