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『ダーウィンの悪夢』では、そんな変貌を遂げた地域が、単なる現状報告ではなく、恐るべき生態系としてとらえられている。貧しい農民たちが仕事を求めて内陸から湖岸に出てきても、元手がなければ漁には出られず、貧困が広がる。女たちは生活のために売春婦になり、エイズが広がる。ナイルパーチの切り身は、ヨーロッパや日本に送られ、貧しい人々は残されたあらを食べる。そのあらを処理する現場の環境は、目を覆いたくなるほど劣悪だ。ナイルパーチと共存する産業は栄え、ストリートチルドレンは、そこから生み出される梱包材で粗悪なドラッグを作り、苛酷な現実から逃避する。
ナイルパーチの加工工場に入ったカメラは、壁のカレンダーの「あなたも巨大なシステムの一部」という標語をとらえる。それは、この映画のテーマを示唆している。ザウパー監督が掘り下げるのは、グローバリゼーションという不可視で巨大なシステムであり、それを象徴するのが輸送機だ。この映画は、輸送機が湖の上空に現れるところから始まり、飛び立っていくところで終わる。その輸送機は、一回に55トンもの魚をヨーロッパに運ぶ。そして、ヨーロッパから武器を運んでくるという疑惑が持ち上がる。
ザウパー監督は、その乗組員たちの生活にも入り込み、何度となく積荷のことを尋ねるが、彼が求めているのは真相だけではない。それぞれに自分は航空士や通信士でしかないからと言葉を濁す乗組員たちの姿からは、システムが健全だとは決して思っていないにもかかわらず、生き残っていくためにその一部にならざるをえない状況が浮かび上がってくる。そんな状況はもちろん、われわれにとっても他人事ではない。さらに、システム末端に追いやられた人々を勧誘する説教師にも注目すべきだろう。彼は、キリストの名においてあらゆる悪を退けるとがなりたて、不可視なシステムを不毛な善悪の二元論にすり替えているのだ。 |