チョコリエッタ(レビュー01)
Chokorietta


2014年/日本/カラー/159分/DCP
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(初出:「CDジャーナル」2015年1月号)

 

 

犬になりたい少女のイニシエーション

 

[ストーリー] 「犬になりたい。」進路調査書にそう書いた16歳の知世子は案の定呼び出しをくらった。大人になるって何かを諦めること――? 映画好きで変わり者の先輩・正宗は、そんな知世子を主人公にして映画を撮ることに。不機嫌な知世子にカメラを向ける正宗もまた知世子と同じ思いを抱えていた。ふたりはカメラを片手に“ここじゃないどこか”を目指して旅に出ることを思いつく。[プレスより]

 風間志織監督にとって『せかいのおわり』(04)以来、10年ぶりの新作になる『チョコリエッタ』では、ベン・ザイトリンの秀作『ハッシュパピー バスタブ島の少女』と同じように、現実とファンタジー、生と死の狭間に独自の空間が切り拓かれ、少女のイニシエーション(通過儀礼)が描き出される。『ハッシュパピー〜』のヒロインは、終末的な世界のなかで、不在の母親がいると信じる場所に向かい、海の彼方の他界における象徴的な死者との交感を通して強靭な生命力を獲得する。

 『チョコリエッタ』で他界への入口になるのは、フェデリコ・フェリーニの『道』だ。この映画が好きだった母親は、主演女優ジュリエッタ・マシーナにちなんで、愛犬をジュリエッタと名づけ、愛娘の知世子をチョコリエッタと呼んでいた。その母親は知世子が5歳のときに交通事故で他界し、以来ジュリエッタだけが彼女の心の支えになってきた。だが、その愛犬の寿命が尽きたとき、世界は退屈でくだらないものになり、16歳の少女は、知世子という人間をやめ、チョコリエッタという犬になろうとする。そんなヒロインは、高校の映研の先輩で“永久浪人”を目指す正宗と再会し、バイクでここではないどこかへ向かう。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/編集   風間志織
脚本 及川章太郎
原作 大島真寿美
撮影 石井勲
音楽 鈴木治行
 
◆キャスト◆
 
宮永知世子   森川葵
正岡正宗 菅田将暉
宮永香世子 市川実和子
宮永周一 村上淳
辻さん 地曵豪
ユキ先輩 三浦透子
宮永霧湖 須藤温子
向日葵畑の女 クノ真季子
森の住人 渋川清彦
岡見 宮川一郎太
爺様 中村敦夫
-
(配給:太秦株式会社)
 

 このドラマは様々な意味で死と結びついている。知世子がチョコリエッタという犬になることは、母親やジュリエッタと繋がろうとすることでもある。彼女と正宗は、旅のなかで『道』のジェルソミーナとザンパノの大道芸を再現するが、そのジェルソミーナは死ぬ運命にある。さらにもうひとつ、見逃せない要素がある。前作『せかいのおわり』に9・11以後の崩壊感覚が漂っていたように、この新作では3・11以後が意識されている。

 チョコリエッタは正宗に、目指すのは海で、山には行かないと約束させる。母親が山で事故死したからだ。だが、ふたりは立ち入り禁止区域に入り、荒廃した土地を進むうちに道に迷い、山に出てしまう。そこで激しく取り乱した彼女は死者を幻視する。そして、そんな他界を通り抜けて海に至るからこそ、ひとつの答えにたどり着く。旅を終えた彼らが行なうある儀式は、喪が明けることを意味し、犬のチョコリエッタは、人間の知世子として再生を果たすことになるのだ。

※ 本作品の劇場用パンフレットにも作品評を書いていますので、そちらもお読みください。


(upload:2015/03/06)
 
 
《関連リンク》
『チョコリエッタ』 レビュー02 ■
『せかいのおわり』 レビュー ■
『火星のカノン』 レビュー ■
『非・バランス』 レビュー ■
ベン・ザイトリン『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 レビュー ■

 
 
 
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