チョコリエッタ(レビュー02)
Chokorietta


2014年/日本/カラー/159分/DCP
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(初出:『チョコリエッタ』劇場用パンフレット)

 

 

知世子とチョコリエッタをめぐる冒険

 

[ストーリー] 「犬になりたい。」進路調査書にそう書いた16歳の知世子は案の定呼び出しをくらった。大人になるって何かを諦めること――? 映画好きで変わり者の先輩・正宗は、そんな知世子を主人公にして映画を撮ることに。不機嫌な知世子にカメラを向ける正宗もまた知世子と同じ思いを抱えていた。ふたりはカメラを片手に“ここじゃないどこか”を目指して旅に出ることを思いつく。[プレスより]

 風間志織監督の久しぶりの新作『チョコリエッタ』で重要な鍵を握るのは、タイトルにもなっている「チョコリエッタ」という呼び名だ。ヒロインである知世子のことをそう呼んだのは、今は亡き母親だった。しかし、このドラマのなかでチョコリエッタは単なる呼び名ではなくなる。愛犬ジュリエッタと深い絆で結ばれていた知世子は、ジュリエッタのいない世界に何の意味も見出すことができない。だから、犬になり、自らチョコリエッタを名乗る。

 そんな彼女の姿勢は、正宗との関係にも影響を及ぼす。知世子は正宗からカメラを向けられることをずっと拒んできた。だが、知世子ではなくチョコリエッタを撮りたいと言われれば、拒むわけにもいかない。今の彼女は知世子とまったく違う存在のはずであって、それが本気であれば、むしろ積極的に証明してみせなければならないからだ。

 そんなやりとりは屁理屈に見えて奥が深い。この映画における「知世子」と「チョコリエッタ」の関係は、宮崎駿の『千と千尋の神隠し』における「千尋」と「千」のそれに重ねることができる。神々のための湯治場に迷い込んだ千尋は名前を奪われて千となり、試練をくぐり抜けて千尋として戻ってくる。少女が現世とは切り離された他界に分け入り、主体性や生命力を獲得して回帰する。『チョコリエッタ』でも、そんなイニシエーション(通過儀礼)が描かれる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/編集   風間志織
脚本 及川章太郎
原作 大島真寿美
撮影 石井勲
音楽 鈴木治行
 
◆キャスト◆
 
宮永知世子   森川葵
正岡正宗 菅田将暉
宮永香世子 市川実和子
宮永周一 村上淳
辻さん 地曵豪
ユキ先輩 三浦透子
宮永霧湖 須藤温子
向日葵畑の女 クノ真季子
森の住人 渋川清彦
岡見 宮川一郎太
爺様 中村敦夫
-
(配給:太秦株式会社)
 

 但し、この映画の場合には、ファンタジーの要素はあってもどこかに明確な他界が準備されているわけではないし、そもそも知世子は人間や大人を否定し、前に進む意思もなく、自らチョコリエッタになり、戻る必要もないと思っている。にもかかわらず、ドラマに盛り込まれた様々な要素が絡み合うとき、そこに他界が切り拓かれ、物語がイニシエーションとして完結するところに、大きな魅力がある。

 この映画でそんな他界の入口となり、様々な要素を結びつける要となるのが、フェデリコ・フェリーニの『道』だ。知世子と愛犬の関係や運命は、元をたどればすべて母親が『道』を好きだったことに起因している。ジュリエッタを亡くした知世子が、もう一度『道』を見ようとしなければ、正宗と再会することもなかった。そんなふうに『道』が死者と生者を結びつけ、その境界を曖昧にする。さらに、正宗も死者と無関係ではない。彼が撮りためた映像を編集するばかりで、完成させられないのはなぜか。それは祖父の死に対する心の整理がついていないからだろう。

 そんなふたりが撮影も兼ねた旅に出て、『道』のジェルソミーナとザンパノの大道芸を再現する姿は非常に興味深い。なぜなら『道』でジェルソミーナは死ぬ運命にあり、この旅のなかでチョコリエッタが死に、知世子として再生することを予感させるからだ。しかしそれは、あくまで筋書きに過ぎない。風間監督はそんな筋書きをただなぞるのではなく、現実へと引き込みながら他界を切り拓く。

 チョコリエッタは旅のなかで正宗に、山には行かないと約束させる。この「山」という言葉は筆者に、死者の霊魂は山に行くという「山中他界観」を思い出させる。もしふたりが山を迂回して海にたどり着けば、イニシエーションにはならなかっただろう。だが、3・11で変貌を遂げた世界が避けて通れない道のように彼らを他界に導き、チョコリエッタはそこで死者に出会う。その結果は、ジュリエッタの犬小屋を焼くという儀式にはっきりと表れる。

 それは、喪が明けることだけではなく、犬となったチョコリエッタの時間が終わることも意味する。そして、知世子が再生を果たし、正宗が作品を完成させ、彼らは自分と世界を肯定して未来に向かって歩み出すことになる。


(upload:2015/11/11)
 
 
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