WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々
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(2011) on IMDb


2011年/アメリカ/カラー/106分/ヴィスタ/ドルビーSDDS・DTS
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ)

 

 

金に困ったさえない弁護士と隠れた才能を持つ家出少年
安易な“WIN WIN”の関係が本物の絆に変わるとき

 

 トム(トマス)・マッカーシー監督は、ニュージャージー出身で、学生時代にはレスリングをやっていた。9・11以後を独自の視点で描いた『扉をたたく人』につづく新作『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』の物語には、そんな経験も反映されている。

 映画の舞台はニュージャージーのサバービア、主人公は、不況で仕事がなく、ストレスに悩まされるさえない高齢者専門の弁護士マイク・フラハティ。彼は家族の生活費を稼ぐため、OBでもある高校の弱小レスリング部のコーチをしたり、違法すれすれのサイドビジネスまで請け負っている。

 経済的に追い詰められた彼は、認知症のため自分で判断ができないクライアントからおこぼれをいただくという安易な金儲けをもくろみ、レオという老人の後見人に名乗りをあげる。そんなある日、彼は身寄りのない少年カイルに出会う。少年に同情したマイクは、居候を許し、レスリング部に誘うが、そこでカイルは図抜けた才能を発揮し、ふたりの“WIN WIN”の関係が始まったかに見える。

 ところが、そのカイルがレオの孫だとわかり、さらにドラッグ中毒の問題を抱える少年の実の母親まで現れて、事態は思わぬ方向へと展開していく。

 マッカーシー監督のデビュー作『ステーション・エージェント』と2作目の『扉をたたく人』には共通点があった。ある事情で人を遠ざけるようになった孤独な主人公が、別な事情で孤立している他者と偶然に出会い、次第に心を開き、自分の気持ちに正直に行動するようになる。

 この新作の物語もそれらと似た構成のように見える。金銭面で苦境に立つ弁護士マイクが、ひょんなことから家出してきた少年カイルに出会い、生活が一変する。前2作では、「鉄道」や「音楽」が主人公と他者を結びつけたように、新作では「レスリング」がマイクとカイルを結びつける。

 しかし新作は、より身近で平凡な日常に踏み込み、誰もがいつ陥るともかぎらない状況を巧みに描き出している。前2作では、小人症という障害や愛する妻の死という避けられない現実が、人を遠ざける原因になっていた。新作のマイクの場合は、家族や友人にも恵まれ、これまでそれなりにまっとうに生きてきたが、苦し紛れに犯したひとつの過ちが、次第に重くのしかかってくることになる。


◆スタッフ◆
 
監督/原案/脚本/製作   トム・マッカーシー
Tom McCarthy
共同原案 ジョー・ティボーニ
Joe Tiboni
撮影 オリヴァー・ボーケルバーグ
Oliver Bokelberg
編集 トム・マカードル
Tom Mcardle
音楽 ライル・ワークマン
Lyle Workman
 
◆キャスト◆
 
マイク・フラハティ   ポール・ジアマッティ
Paul Giamatti
ジャッキー・フラハティ エイミー・ライアン
Amy Ryan
テリー・デルフィーノ ボビー・カナヴェイル
Bobby Cannavale
スティーヴ・ヴィグマン ジェフリー・タンバー
Jeffrey Tambor
カイル アレックス・シェイファー
Alex Shaffer
レオ バート・ヤング
Burt Young
シンディ メラニー・リンスキー
Melanie Lynskey
エレノア マーゴ・マーティンデイル
Margo Martindale
ステムラー デヴィッド・トンプソン
David Thompson
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(配給:エスピーオー)
 

 マッカーシー監督自身がよく知る世界を舞台にしたこの映画は、サバービアものとしてもコミカルかつリアルで、優れた人間ドラマになっている。そして最終的には、ジョン・カサヴェテス的ともいえるような家族の絆が浮かび上がってくる。


(upload:2014/01/28)
 
 
《関連リンク》
『靴職人と魔法のミシン』 レビュー ■
『扉をたたく人』 レビュー ■
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