ヴィクトリア女王 世紀の愛
The Young Victoria  The Young Victoria
(2009) on IMDb


2009年/イギリス=アメリカ/カラー/102分/スコープサイズ/ドルビーデジタルDTS・SDDS
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(初出:)

 

 

19世紀前半のイギリス、若きヴィクトリアの成長を
文化や階級をめぐる他者との関係を通して描き出す

 

[ストーリー] 19世紀前半のイギリス。もともと老齢で即位したウィリアム国王は、いつ倒れてもおかしくない状態だった。国王の姪で王位継承者のヴィクトリアの周辺では、様々な人物が、まだ若く未熟な彼女を操り、権力を手に入れようと画策していた。

 夫の死後、個人秘書ジョン・コンロイと深い仲にあったヴィクトリアの母ケント公爵夫人は、彼の言いなりになって、娘に摂政政治を認めさせようとする。ヴィクトリアの叔父でベルギー国王のレオポルドは、なんとかイギリスからの援助を獲得しようと、甥のアルバートをドイツから呼び寄せ、ヴィクトリアのもとに送り込む。現首相のメルバーン卿は、ヴィクトリアに対するコンロイの影響力を排除するために、巧みにヴィクトリアに取り入る。

 監督は、カナダのケベック州を拠点に活動する異才ジャン=マルク・ヴァレ。ヴィクトリアを、『マイ・サマー・オブ・ラブ』(04)で注目され、『ブラダを着た悪魔』(06)、『チャーリー・ウィルソンズ・ウォオー』(07)、『サンシャイン・クリーニング』(08)などに出演しているエミリー・ブラントが演じています。レビューのテキストは準備中ですが、簡単に感想を。

 ジャン=マルク・ヴァレの監督作は、ケベックを背景として選び、自ら脚本を手がけ、主にフランス語で演じられ、個人のアイデンティティや他者との関係を独自の視点から掘り下げる『C.R.A.Z.Y.』(05)や『カフェ・ド・ロール』(11)の系譜と、自身のオリジナルな企画ではなく、監督としてクレジットされる本作や『ダラス・バイヤーズクラブ』(13)の系譜に大きく分けることができます。

 これは重要な境界ではありますが、後者に属する作品だからといって、個性が失われているわけではなく、独自の視点がしっかりと埋め込まれています。『ダラス・バイヤーズクラブ』では、カウボーイ文化というホモソーシャルな連帯関係を基盤とする集団に属していた主人公ロン・ウッドルーフが、HIVに感染していると判明したとたんに、集団から排除され、自己を見つめ直すことになります。これはヴァレ監督が強い関心を持つ状況だといえます。


◆スタッフ◆
 
監督   ジャン=マルク・ヴァレ
Jean-Marc Vallee
脚本 ジュリアン・フェロウズ
Julian Fellowes
撮影監督 ハーゲン・ボグダンスキー
Hagen Bogdanski
編集 ジル・ビルコック、マット・ガーナー
Jill Bilcock, Matt Garner
音楽 イラン・エシュケリ
Ilan Eshkeri
 
◆キャスト◆
 
ヴィクトリア女王   エミリー・ブラント
Emily Blunt
アルバート公 ルパート・フレンド
Rupert Friend
メルバーン卿 ポール・ベタニー
Paul Bettany
ケント公爵夫人 ミランダ・リチャードソン
Miranda Richardson
ウィリアム王 ジム・ブロードベント
Jim Broadbent
ベルギー国王レオポルド トーマス・クレッチマン
Thomas Kretschmann
ジョン・コンロイ マーク・ストロング
Mark Strong
-
(配給:ギャガ)
 

 もちろん、本作にもそのような視点が埋め込まれています。筆者が「“モザイク”と呼ばれるカナダの多文化主義の独自性と功罪――『モザイクの狂気』とキラン・アルワリアと『灼熱の魂』をめぐって」で書いたように、カナダは世界に先駆けて国の政策として「二言語併用主義」と「多文化主義」を導入しました。なかでもケベック出身の監督はこのテーマに敏感で、それぞれに独自の視点を持っています。

 本作『ヴィクトリア女王 世紀の愛』でも、文化や言語をめぐるエピソードが印象に残ります。ベルギー国王レオポルドによってドイツから呼び寄せられたアルバートは、ヴィクトリアに接近するために、文学や音楽など彼女の好みを頭に入れるトレーニングを受けます。アルバートは意識しないとドイツ語が出てしまうので、それを厳しくたしなめられます。

 アルバートはある意味で自分を偽ってヴィクトリアに接近しようとするわけですが、彼女もリサーチされていることがわかっていて、先手を打って相手が好きなオペラがなにかを当ててみせます。すべて見透かされていることがわかったアルバートは、あなたと違っていてもシューベルトが好きだと打ち明けます。そういうきっかけから、二人は徐々に正直に語り合えるようになっていきます。

 そんなヴィクトリアも、文化ではなく、階級意識については他者の本性を見抜くことができず、貧しい平民のことを気にかけていながら、一見、自由主義的に見えて、実は貴族的、保守的なメルバーン卿に頼りすぎ、混乱を招いてしまいます。

 一方、アルバートは、ベルギー国王レオポルドから“コーブルク人”の連帯意識を強く持つように命じられていましたが、ヴィクトリアとの関係によってその呪縛から脱却していくことになります。レオポルドはその連帯意識を政治的に利用しようとして失敗したということになります。そこらへんの駆け引きも面白いと思いました。


(upload:2014/12/06)
 
 
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