許されざるもの
The Unforgiven


2005年/韓国/カラー/121分/ヴィスタ/ドルビーSRD
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(初出:『許されざるもの』劇場用パンフレット)

 

 

内面化された“軍事主義”

 

 『許されざるもの』は、単に軍隊という組織の不条理を描いた映画でもなければ、軍隊生活という体験によって引き裂かれていく友人関係を描いた映画でもない。この映画が描き出しているのは、“軍事主義”だ。

 『韓国フェミニズムの潮流』に収められたクォン・インスクの「我われの生に内在する軍事主義」は、軍事主義とは何かを考える上で非常に参考になる。クォンは、政治理論家シンシア・エンローを引用し、以下のように説明している。

 軍事主義とは、「集団的暴力を可能とする集団が維持され力を得るために必要な、いわゆる戦士としての男らしさ、そしてそのような男らしさを補助・補完する女らしさの社会的形成とともに、このような集団の維持・保存のための訓練と単一的位階秩序、役割分業などを自然のことと見なすようにするさまざまの制度や信念維持装置を含む概念」なのだ。

 つまりそれは、戦争や軍隊を正当化するイデオロギーに限定されるものではなく、社会に広く浸透しているものでもある。

 ユン・ジョンビン監督は、緻密な構成、人物や状況に対する鋭い洞察やユーモアによって、そんな社会に浸透し、内面化された軍事主義を炙り出そうとする。この映画では、テジョンとスンヨンの関係が、過去と現在、軍隊と日常を往復するドラマのなかで、謎を解いていくように徐々に明らかにされ、それぞれの複雑な内面が浮き彫りにされていく。

 テジョンは、スンヨンが入隊してきたとき、かつての同級生との再会を喜び、彼のことを守ると約束する。ところが一年後、除隊したテジョンは、休暇で出てきたスンヨンに会うことに戸惑いを見せる。私たちは、その原因に興味を持つことから、この映画の世界に引き込まれていく。そしてまず、スンヨンをかばおうとしたために、テジョンも立場を悪くしたことがわかる。しかしそれだけでは、恋人のジヘまで無理に呼び出し、スンヨンと距離を置こうとする行動の説明にはならない。

 そこで次に浮かび上がってくるのが、同性愛的な感情を想起させる身振りや状況だ。スンヨンがテジョンに宛てて書いていた手紙の中身が暴露されたことは、テジョンにとっても大きな打撃となった。それを踏まえれば、彼がジヘを呼び出すことも頷ける。しかし皮肉なことにそのジヘは帰宅してしまい、テジョンとスンヨンがラブホテルに取り残される。そんな状況は、テジョンにさらに同性愛を意識させ、彼を苛立たせるが、スンヨンを苦しめているのは、そういうことではない。


◆スタッフ◆

監督/脚本
プロデューサー
  ユン・ジョンビン
Yun Jong-bin
プロデューサー イ・ドンジュン、イ・ヨンギ
Lee Dong-jun, Lee Yoon-ki
撮影監督 キム・ビョンチョル
Kim Byeong-cheol
編集 キム・ウイル
Kim Woo-ll

◆キャスト◆

ユ・テジョン   ハ・ジョンウ
Ha Jung-woo
イ・スンヨン ソ・ジョンウォン
Seo Jang-won
ホ・ジフン ユン・ジョンビン
Yun Jong-bin
-
(配給:チョンオラム)
 

 この映画を見た私たちは、テジョンとスンヨンが、本当はお互いを深く理解し合える立場にあることを知る。テジョンは、スンヨンをかばいきれなくなって、殴りつけ、スンヨンは、ジフンをかばいきれなくなって、突き放した。そういう意味では、二人は間違いなく痛みを共有できたはずだが、そんな彼らを規定し、引き裂き、孤立させるものこそが、内面化された軍事主義なのだ。

 『許されざるもの』が、韓国映画としていかに重要なテーマを扱っているのかは、前掲書の以下の記述でより明確になるだろう。「北朝鮮を極端に敵視し、この集団に対する敵愾心と恐怖心、そして戦争の可能性を繰り返し強調することによる緊張感の造成、国家防衛の神聖化、米軍駐屯に対する大衆の一般的支持、国民皆兵制、三〇余年の軍事政権支配を可能にした諸々の要因、広範に行きわたっている多様な理念と価値体系、細分化された文化等を包括しながら総体的に進行してきた一つの社会の軍事化過程」。この映画の主人公たちは、そんな軍事化過程が生み出した見えない力に翻弄されているのである。

《参照/引用文献》
『韓国フェミニズムの潮流』チャン・ピルファ、クォン・インスク、他●
西村裕美・編訳(明石書店、2006年)

(upload:2007/11/11)
 
 
《関連リンク》
ユン・ジョンビン 『群盗』 レビュー ■
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