ジョージ・クルーニー
George Clooney


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(初出:「English Journal」2006年7月号)

 

 

優れたバランス感覚を備えたクレバーな映画人

 

 ジョージ・クルーニーは、今年(2006年)のアカデミー賞で、監督賞と脚本賞(『グッドナイト&グッドラック』)、助演男優賞(『シリアナ』)にノミネートされ、助演男優賞を獲得した。『グッドナイト&グッドラック』では、出演も含めた三役をこなし、『シリアナ』では、製作総指揮にも名前を連ねる。この2作品だけでも、彼が、優れたバランス感覚を備えたクレバーな映画人であることがわかるだろう。

 1961年、ケンタッキー州生まれのクルーニーは、子供の頃からなかなかのバランス感覚の持ち主だったようだ。彼は、父親がテレビのキャスターやトークショーのホストとして活躍していたため、テレビ局に出入りし、父親の番組に顔を出すこともあった。だが、ただの目立ちたがり屋ではなかった。「大きくなるにつれて、ジョージは父親の番組でもっと複雑なコントをやるようになったが、裏方の仕事にも才能を発揮した。キューカードを持ったり、楽屋裏で小道具の整理をしたりとよく働いて重宝がられた」(「クルーニー スピークス『ER』」)

 テレビ・シリーズ『ER 緊急救命室』でブレイクしたクルーニーが、映画界に進出していく過程にも、彼の見識が現れている。彼は、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(96)、『素晴らしき日』(96)、『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』(97)、『ピースメーカー』(97)といった話題作に次々と出演し、脚光を浴びる。

 10年以上もの長い下積みを経験した人間であれば、一気に映画界に突き進んでもおかしくない。しかし、彼は多忙を押して『ER』のレギュラーを続ける。彼が降板を決意するのは、『アウト・オブ・サイト』(98)と『スリー・キングス』(99)に出演してからだが、この2作品は、彼のその後の活動と深い結びつきを持っている。


   《データ》
1996 『フロム・ダスク・ティル・ドーン』
『素晴らしき日』

1997 『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』
『ピースメーカー』

1998 『アウト・オブ・サイト』

1999 『スリー・キングス』

2001 『オーシャンズ11』

2002 『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』
『コンフェッション』
 
 
2005 『グッドナイト&グッドラック』
『シリアナ』

(注:これは厳密なフィルモグラフィーではなく、本論で言及した作品のリストです)
 


 クルーニーは、『スリー・キングス』の企画に共鳴し、ただ出演するだけではなく、資金面でも協力しようとした。なぜなら、湾岸戦争を題材にしたこの映画が、後に議論の的となる中東とアメリカをめぐる石油問題にいち早く着目していたからだ。こうした問題提起の姿勢は、クルーニーの新作に引き継がれている。

 『シリアナ』では、まさにその石油をめぐってアメリカの大企業やCIA、産油国、テロリストらが暗闘を繰り広げ、クルーニー扮するCIA工作員やパキスタン人の出稼ぎ労働者が生贄にされていく。『グッドナイト&グッドラック』では、50年代のマッカーシー上院議員による“赤狩り”の猛威が、9・11以後のアメリカの暴走に重ねられていくのだ。

 一方、『アウト・オブ・サイト』は、クルーニーがスティーヴン・ソダーバーグと出会う機会となった。ふたりは後に制作会社セクション・エイトを設立し、クルーニーはこの会社を拠点に、様々なコラボレーションを展開していく。それはたとえば、トッド・ヘインズやクリストファー・ノーラン、ジョン・メイブリーといったインディーズや海外の異才と組むことであり、『オーシャンズ11』(01)や『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』(02)、『シリアナ』のようなアンサンブル映画を作ることでもある。『グッドナイト&グッドラック』も例外ではない。この映画では、マッカーシーと対峙した実在キャスターのエド・マローだけでなく、彼の同僚や上司からも個性や感情が見事に引き出されているからだ。

 さらに、クルーニーのテレビへのこだわりにも注目しておくべきだろう。彼が自ら監督した『コンフェッション』(02)とこの『グッドナイト&グッドラック』の2本は、まったくタイプの異なる作品だが、どちらもテレビの現場を舞台にしている。そこには、彼が子供の頃から親しみ、下積み時代に多くのことを学んできた世界に対する愛着を感じとることができる。実際、彼は『ER』以後も、映画の合間を縫うようにテレビ・ドラマの製作を手がけている。そしてもちろん今後も、映画とテレビの両面でユニークなコラボレーションを展開していくに違いない。

《参照/引用文献》
「クルーニー スピークス『ER』」サム・キーンレイサイド●
古川奈々子訳(デジタルハリウッド出版局、2000年)

(upload:2009/05/25)
 
 
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