アメリカの極右:白人右派による新しい人種差別運動
/ ジェームズ・リッジウェイ

Blood in the Face : The Ku Klux Klan, Aryan Nations, Nazi Skinheads, and the Rise of a New White Culture / James Ridgeway (1990)


1993年/山本裕之訳/新宿書房
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(初出:「図書新聞」1993年10月、若干の加筆)

 

 

活動が表面化する極右の歴史と現在

 

 アメリカでは80年代に入った頃から、人種差別集団の活動が表面化してきている。そんな現実は映画にも表れている。ルイ・マルが監督した『アラモベイ』は、80年代初頭にテキサス州で起こったベトナム難民とKKK(クー・クラックス・クラン)に煽動された白人漁師との衝突事件に基づいていた。

 エリック・ボゴジアンの舞台を映画化した『トーク・レディオ』やコスタ・ガブラスが監督した『背信の日々』は、84年にデンバーで、ラジオのトークショーのホストでユダヤ系のアラン・バーグが、極右派の地下組織のメンバーにマシンガンで射殺された事件にインスパイアされた作品だった。

 また、そうした暴力的な事件だけではなく、KKKの指導者だったデイヴィッド・デュークが、選挙活動によって人種差別を政治の表舞台に持ち出し、マスコミの注目を集めたことも記憶に新しい。

 本書は、このように表面化しつつある極右派の活動の背景を掘り下げ、その全体像と現在を浮き彫りにするノンフィクションである。著者のジェームズ・リッジウェイは、長年に渡って「ヴィレッジ・ヴォイス」誌を発表の場にしてきたジャーナリスト(現在はワシントン特派員)で、本書も同誌に発表した極右に関するルポが出発点になっている。

 「ヴィレッジ・ヴォイス」は、極右派の台頭の他、ネイション・オブ・イスラムの指導者ルイス・ファラカンやヒップホップが発信する社会的なメッセージに注目するなど、様々な角度から人種差別問題を取り上げてきた。本書はそうした姿勢のひとつの成果といえる。

 リッジウェイによれば、アメリカの極右は百年以上の歴史を持つにもかかわらず、これまでメディアが彼らのセンセーショナルな側面ばかりをクローズアップしてきたために、組織の歴史や活動の実態などについてほとんど検証されることがなかったという。

▼本書に基づくドキュメンタリー

 本書では、1866年に創設されたKKKから始まって、60年代に高まりを見せた公民権運動に対抗して突出してきたジョン・バーチ協会やミニットメン、あるいは冒頭で触れたアラン・バーグを殺害したオーダー、そして、現在の運動を担うポシー・コミタータスやホワイト・アーリアン・レジスタンス、人民党まで、組織の変遷や重要な役割を果たした人物たちの実像が明らかにされていく。しかも本書には、著作や説教、インタビューの断片が数多く盛り込まれ、彼らの思想が直接検証できるように配慮されている。

 こうした極右派の検証からは、キリスト教右派との結びつきや、社会の大きな変化のたびにユダヤ人差別に利用される「シオンの長老たちの議定書」の真偽を糺す作業を通して、アメリカ人の精神的な基盤といえるものが浮かび上がってくる。そんな検証が現実的な意味を持つのは、レーガン政権が、極右派勢力の支持を期待し、彼らが表舞台に登場することを容認するような状況を作ったからだ。

 そして、このようなアメリカの現状のなかで、リッジウェイが白人革命の希望の星として注目するのが、冒頭で触れたデイヴィッド・デュークと、かつて彼の配下でカリフォルニア支部のクランの指導者だったトム・メッツガーの二人だ。

 なかでもこれからのアメリカを占う上で特に興味深いのが、メッツガーの存在、あるいは彼が象徴するような立場だろう。メッツガーは、ホワイト・アーリアン・レジスタンスの指導者としてスキンヘッズの若者たちを吸収し、暴力行為を働く集団として育成しているという。

 アメリカにはレーガンの保守化政策によって、希望や出口を失った若者たちが数多く存在することを考えるなら、これは大きな脅威といえる。本書では、そうしたレーガンの子供たちに影響を及ぼすポップカルチャーの背後に潜む人種差別にはあまり踏み込んでいないが、今後のアメリカの動向を左右する問題が浮き彫りにされていることは間違いない。


  ◆目次◆

    まえがき
  感謝のことば
   
はじめに 白人右派の革命運動
  右翼人種差別主義のルーツ
  「古いスタイルのアメリカの正義」
  新極右派の指導者たち
  「これは革命だ」
第1章 世界的陰謀
  「悪魔のユダヤ人」
  『国民の創生』
  フォード主義
  アメリカでもっとも危険な男
  大草原の学校
  注目すべき煽動家
  アイデンティティの対立
第2章 再生
  二つの同時革命
  オン・ターゲット
  カートの命令
  ヒトラーのレーニン
  再興
  J・エドガー・フーバーとマーチン・ルーサー・キング
  政治の表舞台へ
第3章 第五期
  山の老人
  狂犬
  「アーリアン・ネーションズ」と「オーダー」
  グレン・ミラーの白人愛国党
  クランと対決する
第4章 ポシーの国
  ポシー・コミタータスとは何者か?
  カールとハンフリーズ
  がたがたの人民党
  ルーロ農場事件
第5章 新しい白人の政治
  ディキシーの国デューク
  明日はわがもの
  裏切ったときの報復
  人種は理性である
エピローグ 奇蹟、ムチ、文化
  タブーを破る
  日陰ものが表舞台に
  赤の恐怖と白人の恐怖
   
  参考文献
  索引(人名索引・事項索引)
  解説

◆著者プロフィール◆

ジェームズ・リッジウェイ
(James Ridgeway)

1936年、ニューヨーク州オーバーンの生まれ。プリンストン大学で博士号を取得した後、1960〜61年、「ウォールストリート・ジャーナル」紙の記者、1962年〜68年、「ニューリパブリック」誌の編集に参加。1968年、政治・経済問題を扱う週刊ニューズレター「ハードタイムス」を創刊。1970〜71年、「ランパーツ」誌の編集員。1974年、世界全体の主要商品の生産高、輸出入、消費量などを扱う週刊ニューズレター「エレメンツ」を創刊。1970年代初期、バーモントのゴダード大学、カリフォルニア大学デービス校で教鞭をとる。1975年、「ビレッジ・ボイス」誌のスタッフに加わる。現在、「ビレッジ・ボイス」誌のワシントン特派員として全米の問題を扱う「ムービング・ターゲット」が特集記事を担当。この他にも、1988年の大統領選挙中、ラジオ・ドキュメンタリー番組を多数制作。さらに、FBIの国内における諜報活動を扱った番組などの制作にも参加。プロデューサーの1人として参加したアメリカの極右運動の政治・文化をテーマとする長編ドキュメンタリー・フィルム“Blood in the Face”は1991年に発表された。

 



(upload:2012/12/27)
 
 
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