ファストフードが世界を食いつくす /エリック・シュローサー
Fast Food Nation / Eric Schlosser (2001)


2001年/楡井浩一訳/草思社
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(初出:)

急激な変化を遂げたコロラドスプリングズを通して
アメリカを動かす“ファストフード精神”の本質に迫る

 エリック・シュローサーのベストセラーである本書は筆者の愛読書なので、まとまったレビューを書きたいと思っていますが、先のことになりそうです。とはいえ、これまでさまざまな記事を書くうえで参照・引用していますので、とりあえずそれをまとめておきたいと思います。

本書は、ファストフードについて、それが具現化する価値観や、それが築いてきた世界について述べた本である。ファストフードはアメリカ人の生活に革命的な影響を及ぼしてきた。わたしは商品という面からも、象徴という面からも、これに興味を抱いている。人々の食べるもの(あるいは食べないもの)は、そのような時代であれ、社会的要因、経済的要因、技術的要因の複雑な相互作用によって決定される」[「はじめに」より]

 まず注目したいのが、著者シュローサーが、共同プロデューサー、中心的な案内役を務めているロバート・ケナー監督のドキュメンタリー『フード・インク』(08)。この映画には、本書の第6章から第9章に至る内容が具体的に反映されている。映画の冒頭の「すべての食品はファストフードに」は、第6章に沿っている。たとえば、マックナゲット用の契約を獲得したことで、世界最大の鶏肉加工業者になったタイソンフーズにまつわるエピソードだ。シュローサーは本で以下のように記述している。

タイソンと契約した養鶏業者は、鶏舎こそ自前だが、中で飼っている鶏は自分の所有物ではない。大手加工業者の例にもれず、タイソンも、契約業者に一日齢の雛を送り届ける。孵化したその日から屠られる日まで、鶏は一生を養鶏業者の敷地内で過ごす。それでも、所有しているのはタイソンだ。タイソンが飼料を提供し、獣医を派遣し、技術上のサポートを提供する。給餌日程を決め、設備の更新を求め、“家畜指導官”を雇って、会社の指示がきちんと実行されているかどうか確認させる。タイソンの派遣したトラックがやってきて積み荷の雛を降ろし、七週間後にふたたびやってきて、解体を待つばかりの若鶏を運び去る。加工工場に着くと、タイソンが鶏の羽数を数えて体重を量る。養鶏業者の収入は、ここで勘定される羽数と体重、消費飼料費をもとに、一定の計算式に従って算定される

養鶏業者が提供するのは、土地と、労働力と、鶏舎と、あとは燃料だ。大半は借金を負い、一棟あたり約一五万ドルを投じて鶏舎を建て、二万五〇〇〇羽程度を飼育している。ルイジアナ工業大学が一九九五年に行った調査によると、養鶏業者は平均して一五年間にわたって養鶏業を営み、鶏舎を三棟建てて、なおかなりの負債を抱え、年収が一万二〇〇〇ドル程度だった。国内の養鶏業者の約半数は、わずか三年で廃業し、いっさいを売り払うか、失うかしている。アーカンソーの地方の田舎道を行くと、取り残された鶏舎の廃屋がそこここに散らばっている

 『フード・インク』には、タイソン社と契約している南部の養鶏業者が登場する。彼は、光を遮断された鶏舎の薄暗がりで飼育される鶏をクルーに見せようとする。だがタイソンの代理人が待ったをかけ、カメラが鶏舎に入ることは叶わない。タイソン社自体も取材を拒否する。

 そこでクルーは鶏舎の中身を見せてくれる農家を訪ね歩くことになる。やっとのことで、別の企業と契約し、同じ方法で鶏を育てている農家が見つかり、私たちは50年前の半分の日数で育つ、異様に大きな胸を持った鶏を目の当たりにする。そのなかには、骨や内臓が急激な成長に耐えられずに動けなくなったり、死んでしまう鶏がいる。

 では、食肉処理場の場合はどうか。本書の第8章は、このように始まる。

ある晩、わたしはハイプレーンズのある食肉処理場を訪ねた。国内最大級の規模を持つ処理場だ。毎日、約五〇〇〇頭の牛が一列になって入っていき、別の姿になって出てくる。この工場に関係を持つある人物が、従業員の労働環境に胸を痛め、わたしの案内役を買って出てくれた。(中略)友人はわたしに、鉄の鎖でできた前掛けと手袋を差し出し、着用するように言った。ライン沿いで作業する従業員は白衣の下に三キロ半ほどの鎖帷子を着けている。光沢を放つ鋼鉄製で、両手、手首、腹部、背中を覆う。刃物を扱う作業員が自分の身を切りつけないよう、そして同僚に切りつけられないよう考案された保護具だ。しかし、ナイフの刃はどうかすると、鎖を突き破る。案内人は次に、ウェリントンブーツを差し出した。英国紳士が田舎で履く、膝頭まで隠れるゴム長だ。「ズボンのすそをブーツの中にたくし込んで」彼は言った。「血だまりの中を歩くから」

 シュローサーは友人の協力によって処理場を見学することができたが、もちろんカメラが入ることは容易ではない。『フード・インク』では、1日に3万2000頭を加工するという巨大な処理場に隠しカメラを使って入り、撮影を行っている。そこではメキシコからの不法移民が、速度を上げた作業ラインで“生きた機械”として働いている。こうした集約化は効率的ではあるが、細菌が混入した場合、その被害が多方面に広がる危険性はより大きくなる。


◆目次◆

    はじめに
第1章 創始者たち
  スピーディーサービス/模倣者たち/成功のしるし
第2章 信頼に足る友
  マクドナルドとディズニー/よりよい生活という幻想/子どもの顧客をねらえ/完璧な相乗効果/ブランドの精神/マック先生とコカコーラ人
第3章 効率優先の代償
  スペースマウンテン/生産量第一主義/おだて――安上がりの秘訣/嘘発見器/無気力な若者が増えていく/内部犯罪/楽しくやろう
第4章 フランチャイズという名の甘い誘惑
  新たな信仰への献身/政府融資による自由企業/プエブロの外の世界
第5章 フライドポテトはなぜうまい
  孤立農家の過ち/記憶に刻まれる風味/一〇〇万本のフライドポテト
第6章 専属契約が破壊したもの
  専属供給の圧力/ミスター・マクドナルドの胸/市場の支配/裕福な隣人という脅威/断ち切られた絆
第7章 巨大な機械の歯車
  IBP革命/札束の袋/離職率一〇〇パーセント/芳しき匂い
第8章 最も危険な職業
  よく切れるナイフ/最もむごい仕事/見つかるな/腕一本の値段/ケニーの場合
第9章 肉の中身
  新たな病原体にとっての、格好のシステム/国民的食べ物/子どもたちを殺す病原菌/必要と考えるすべての費用/意思の問題/なぜ自主回収されないか/放射線“低温”殺菌/子どもたちが食べているもの/キッチンの流し
第10章 世界的実現
  マクドナルドおじさんの世界戦略/晒し者/脂肪の帝国/マック名誉毀損裁判/牧場への回帰
終章 お好きなように
  科学的社会主義/何をすべきか/どのようにするか
  訳者あとがき

 
 

 そして、筆者がそうした要素とはまったく違った意味で非常に興味をそそられるのが、本書ではテーマを掘り下げるために特定の場所が選ばれているということです。それが、コロラドスプリングズです。

わたしがコロラドスプリングズを本書の中心地に選んだのは、近年この町を襲った変化が、ファストフード――およびファストフード精神――によってアメリカじゅうにもたらされた変化を象徴しているからだ。全国に無数に点在するほかの都市近郊共同体においても、似たような変化が生じている。コロラドスプリングズのめざましい成長は、ファストフード産業の成長に呼応する。この数十年で、市の人口は二倍以上になった。シャイアン山麓の丘陵地やその東に広がる草原地帯において、住宅が次々に分譲され、ショッピングセンターや外食チェーン店が続々と出現しつつある

 これは拙著『サバービアの憂鬱――アメリカン・ファミリーの光と影』(93)に完璧に結びつく世界で、当然、関心も膨らみます。そして見逃せないのは、減税、小さな政府、完全なる自由市場を追及するという理念が広く浸透しているように見えるこのアメリカ西部の背後にあるものです。この四半世紀におけるファストフード産業のめざましい成長は、必ずしも政策と無関係ではないということです。

この間、インフレ調整後の最低賃金は約四〇パーセントほど下がり、大衆消費者向けマーケティングの巧妙なテクニックが初めて幼い子どもたちに用いられ、労働者や消費者を保護するために設けられたはずの政府機関が、往々にして、規制対象の企業の出張所であるかのようにふるまった。リチャード・ニクソン政権以降、ファストフード産業は議会やホワイトハウスの協力者たちと結託して、労働者や食品の安全を図る法律、最低賃金を定める法律の新たな制定に反対してきた。そして、表向きは自由市場を信奉していながら、じつにさまざまな政府補助金をひそかに手に入れ、その多大な恩恵に浴してきた。アメリカのファストフード産業の今日の姿は、必然の結果であるどころか、特定の政治的、経済的意思のなせるわざなのだ

 本書では、そうした政治的、経済的な意思が常に意識されています。また、サバービア絡みの興味深い記述が他にもたくさんあります。たとえば、ファストフード産業の出発点については、南カリフォルニアで、どちらも自動車が関わる新しい生活様式と新しい飲食様式が生み出されるという位置づけから話が展開していきます。その生活様式とはロサンゼルスのことで、「世界じゅうのどの都市にも似つかぬ姿になり、中心のないまま不規則に広がって、一戸建てが建ち並ぶ、完全な郊外型大都市に成長した――その後続々と車によって作られる景色の、先駆けというわけだ」と表現されています。

 さらに、コロラドスプリングズの変貌は、コロンバイン高校銃乱射事件とも無関係とはいえないように思えるのですが、そのことについては「サバービア、ゲーテッド・コミュニティ、刑務所――犯罪や暴力に対する強迫観念が世界を牢獄に変えていく」に書きましたので、そちらをお読みください。


(upload:2014/01/13)
 
 
《関連リンク》
ロバート・ケナー 『フード・インク』 レビュー ■
『サバービアの憂鬱――アメリカン・ファミリーの光と影』 ■
サバービア、ゲーテッド・コミュニティ、刑務所
――犯罪や暴力に対する強迫観念が世界を牢獄に変えていく
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