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彼の言葉に出てきた『エレンディラ』は、8月上旬から日本で上演されている蜷川幸雄演出の舞台。原作は、ラテン・アメリカ文学を代表するガルシア・マルケスの同名小説で、ナイマンが音楽を手がけている。
「この舞台のために、4つの歌を作曲しました。作曲にあたっては、劇の文化的、社会的な背景を考慮したり、歌詞や台詞にヒントを得ていますが、南米は意識しませんでした。いかにもラテンというような模倣や異国趣味は避けたかった。劇の文脈を通して聴くと南米的な雰囲気が感じられるようにしたかったわけです。この音楽には、オペラ的な瞬間、感情が高ぶる瞬間、美しく叙情的な瞬間があり、とても変化に富んでいます」
ナイマンにとってMN Recordsは、彼の音楽を伝えるだけのメディアではない。彼はアートワークにも深く関わっている。
「CDのジャケットには、これまで私が撮りためてきた写真のなかから、作品のテーマにあったものを選んで、ラッセル・ミルズにデザインしてもらっています。私が76年に出したファースト・アルバムをデザインしてくれたのもラッセルで、今後も彼のデザインで統一していきます。先ほどお話したユカワ=チャンのCDは、ありきたりなクラシックのデザインにしたくないので、今回、築地で撮った写真が使えないかと思っています。要するに、自分が撮った写真がアーカイヴになっているということですね。私は、作曲家やピアニストとしてだけでなく、ヴィジュアル・アーティストとしても作品を作っていきたい。自分が実際に世の中を観察し、撮影した写真やビデオをいま整理・編集しているところで、自分の音楽の構成とその写真やビデオという視覚的な世界との関係性をこれから探っていきたいと思っています」
最近もますます旺盛な活動を展開するナイマンだが、なかでも特に詳しい話を聞きたかったのが、イラク人の詩人ジャマル・ジュマの詩を題材にした大作“A Handshake in the Dark”のことだ。作品の公演は、今年の春にロンドンで行われたという。
「この作品は偶然から生まれました。その発端は、BBCからオーケストラと合唱団のための作品を依頼されたことでした。私はこれまで、サッカーやロシア革命、身体の科学など、自分が関心を持っている題材を選んできましたが、この作品では戦争を扱っています。イギリスでは、第一次大戦から戦争を主題にしたレクイエムを創作する動きが活発になりました。その代表は、詩人のウィルフレッド・オーウェンです。私もその流れに加わり、20世紀初頭に活躍したデイヴィッド・ボンバーグという、私が最も好きな詩人・画家の詩をもとに、作曲することにしました。ところが、彼の詩はあまりにも完璧で、音楽を加える必要がないことがわかり、作業を断念しました。
そんな時に目にとまったのが、イラクの現代詩の本でした。米英の連合軍の侵攻で破壊されているイラク文化を理解するためにその本を読み出し、ジュマの詩に出会いました。それは、湾岸戦争で彼の弟が捕虜になったときに、その弟に宛てた届くことのない手紙というかたちで書き続けられた詩でした。弟への痛切な思い、戦争に対する恐怖や怒りが伝わってきて、感銘を受けました。そこでジュマにコンタクトをとると、本には掲載されていない残りの詩も送ってくれて、私の曲もどんどん膨らみ、30分近い大作になりました。ジュマは、ロンドンの公演の初日に来てくれました。彼の素晴らしいテキストに出会い、非常に興味深い作品になりました」
レクイエムは、ナイマンの音楽のなかで重要な位置を占めている。かつて彼は、自分の音楽とレクイエムの繋がりについて、筆者にこのように語っていた。「西洋音楽の歴史のなかには、死に対するきまった表現のモードが作り上げられ、私はそのラインを引き伸ばしているようにも思います」。それを実践することが、戦争という新たなテーマを切り開き、現在進行形の問題にも光をあて、音楽をさらに発展させていくのだ。 |